4挺とも非常に良い保存状態である。特にヴィオラは素晴らしい状態にある。1982年から1993年までこの「パガニーニ・クァルテット」を使用していたクリーブランド弦楽四重奏団（Cleveland Quartet）の演奏者は、何百年にもわたって弾き続けられたことによって熟成され、磨きをかけられた素晴らしい音を出すと絶賛していた。

アントニオ・ストラディヴァリ（1644-1737, Antonio Stradivari）製作による楽器で構成されたクァルテットは、世界で6セットの存在が知られている。このクァルテットはその１つであり、19世紀初頭の卓越したイタリアのヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニ（1782-1840, Niccolò Paganini）氏が、自らの弦楽四重奏団で使用、演奏していたことから「パガニーニ・クァルテット」と呼ばれている。1840年にパガニーニが没した後、散逸してしまったが、20世紀の初頭、ニューヨークの高名な楽器商エミール・エルマン（Emil Herrmann）氏が25年以上かけて集め直した。

1940年代にこのクァルテットは、米国上院議員未亡人アンナ・E・クラーク（Anna E. Clark）夫人により楽器商エミール・エルマン（Emil Herrmann）氏から購入され、同夫人は1964年にこれを米国ワシントンにあるコーコラン美術館（Corcoran Gallery of Art）に寄贈した。以来コーコラン美術館は、クラーク夫人の寄贈条件である楽器の貸与を実施し、1993年までは米国のクリーブランド弦楽四重奏団に貸与をしていた。

コーコラン美術館は、従来、絵画・彫刻の美術館であるため楽器の専門家がおらず、その管理・維持・貸与・演奏等に困難を感じていたところ、当財団の楽器貸与事業の意向が合致したので、1994年4月、当財団に「パガニーニ・クァルテット」を売却した。購入した当時、当財団の楽器貸与委員であった指揮者のロリン・マゼール（1930-2014, Lorin Maazel）氏と来日中のフィルハーモニアの首席奏者による披露演奏会を東京で行ったが、その際に、1727年製のパガニーニ・ヴァイオリンを奏でたマゼール氏は「まるでパガニーニと対話しているみたい」と感動していた。

コーコラン美術館へ寄付したクラーク夫人の意思を尊重し、当財団は「パガニーニ・クァルテット」を4つの楽器をバラバラにすることなく、弦楽四重奏団への貸与を続けている。これまで東京クヮルテット（Tokyo String Quartet)、ハーゲン・クァルテット（Hagen Quartet）、クレモナ・クァルテット（Quartetto di Cremona）等に貸与した。

1945年4月27日から6月3日までブルックリン美術館で開催された「アントニオ・ストラディヴァリ生誕300年、グァルネリ・デル・ジェス没後200年」を記念した展示会”Fiddles of the Master Craftsmen” に「パガニーニ・クァルテット」それぞれ4挺が出展された。この展示会には、当財団が保有しているストラディヴァリウス・ヴァイオリン「ハギンス;Huggins」も展示された。